消防士の仕事は「警防・消防」「救急」「救助」「予防」など様々な業務があります。
本記事では、「救急」業務について元消防士が実体験や経験を交えて徹底解説します。
消防の業務に興味がある方や救急救命士を目指す方は必見です。
救急活動
救急車に乗っている救急隊員てどんな人だろう?
「怪我や病気で動けない。」「早く病院に連れて行かなければ。」
こんな非常事態の時、真っ先に思い浮かべるのは「119番」や「救急車」ではないでしょうか。
呼べば必ず助けに来てくれる救急隊員の正体を知っていますか?
実は救急車には消防士が乗っているのです。それに、救急車が消防署から出場することを知らない方もいるのではないでしょうか。
救急はその人によって症状が違いますが、どのような内容で救急が呼ばれているのか紹介します。
急病
- 頭が痛い
- 胸が苦しい
- おなかが痛い
- 吐血や下血がある
- 体の片側が動かない
- 呂律が回らない
- 急に意識がなくなった
- 人が倒れている
- お風呂に沈んでいて動かない
といった内容で呼ばれる救急は【急病】に該当します。
119番があると、救急隊員は指令を貰って出場します。その後、救急車で現場へ向かう最中に通信指令室で通報者から聞いた情報を救急隊へ伝えます
救急車の要請を受け、救急車が現場へ到着するまでの時間は、全国で平均10分以内になっています。その短い時間で通信指令室から得た情報をもとにおおまかな原因を推測して現場活動へ入ります。
例えば、
- 急に呂律が回らなくなった
- 体の片側にうまく力が入らない
- 両目が同じ方向に偏って向いている
- 急に頭をバットで殴られたような痛みがある
といった場合は脳の疾患を疑います。
傷病者と接触した時、もしくは救急車内で様々な観察を行い脳疾患の疑いがあるのであれば脳外科がある病院を選定して収容依頼をしていきます。
- 喉に食べ物を詰まらせて倒れて動かない
- 家族がお風呂から出てこず、お風呂に沈んでいた
- 物音がして、そこに行ったら人が倒れていた
- 家族が自傷行為をして意識がない
このような場合は心肺停止を疑います。
傷病者と接触した時に、AEDで心臓の波形を確認して意識や呼吸が無い場合は胸骨圧迫(心臓マッサージ)と呼吸管理、場合によっては電気ショックを行います。
救急救命士の資格を持っている救急隊は、医師に電話等で指示を貰いより確実な呼吸管理を行う為に食道閉鎖式エアウエイ・ラリンゲアルマスクや気管挿管を用いて呼吸管理を行ったり、点滴やアドレナリンを投与するために静脈路確保(点滴)など救命士にしか許されていない【特定行為】と呼ばれる行為も行います。
救急隊は、これらの技術を使用し傷病者の心肺蘇生を目指します。さらには、社会復帰まで考慮して有効かつ適切な活動を心がけています。
上記以外にも特定行為はありますが、どのような状況でも、傷病者にとって最適な活動をするために救急車には必ず救命士が一人以上乗っています。
一般外傷
- 階段から転んでしまった
- 部活動でけがをした
- 草刈り機で足を切ってしまった
- 動物にかまれた
- 指を切断した
- 火傷した
- ナイフで胸を刺された
【一般外傷】は「創傷」(皮膚表面に関与した怪我)や一般的に「怪我」と呼ばれるものを指します。
基本的には命に係わる事案ではないですが、今後の人生にまで影響する障害が残る可能性があります。
中でも危険な状態は、「高所からの落下」「火傷」「刃物が刺さっている」状態です。
「高所からの落下」は脳や脊髄を損傷してしまうと体が動かしにくくなったり、動くことが出来なくなってしまいます。
「火傷」は軽いものは命に影響しませんが、重篤なものでは最悪、死に至ります。特に重篤な火傷は皮膚の中まで影響を及ぼしますが痛みを感じません。皮膚の移植等も考慮される事案なので、安易に大丈夫と思わずに119番通報しましょう。
「刃物が刺さっている」状態は、すぐに119番に通報しましょう。そして、刃物を抜くのは絶対にやめてください。抜いた瞬間から出血が止まらなくなります。また、内臓も損傷している恐れがあるので十分注意しましょう。
交通事故
- 車両:人
- 車両:車両
- 車両単独
交通事故には主にこの3種類があります。
車やバイクで事故が起きると運転者や同乗者、そして通行人などの身体に強い衝撃が加わります。
事故が発生して、車両が変形し車両から傷病者が出られない場合は「救助隊」が専用の資機材を使用し迅速な救助をします。
その後「救急隊」へ引き継いで、心肺停止が疑われるときは心肺蘇生を実施します。
また、交通事故では、体を動かすシステムを司る「神経」が損傷している場合があります。事故概要を考慮して場合によっては、神経が集まっている頭から首、背骨を動かすことでさらに神経が損傷するのを防ぐために「頸椎保護」とよばれる首の固定や「全脊柱固定」と呼ばれる全身固定を施します。
車両が火災になる場合もあるので、火が出た際に迅速な消火活動を行うために「消防隊」とも連携します。
転院搬送
- A病院からB病院へ
- CクリニックからD病院へ
救急出場には病院から病院へ搬送する【転院搬送】という救急があります。
地域の総合病院では対応できない症状の方を大学病院など比較的大きな病院や専門的な治療をする設備がある病院へ搬送します。
よくあるのが、小さな診療所やクリニックで受診したら「心筋梗塞や脳梗塞の疑いがあるため大きな病院へ転院をしてほしい。」という内容です。
この転院搬送では、医師や看護師が救急車へ同乗することがあり、収容先の病院へ患者さんの状態等を申し送ります。
また、転院搬送に似ていますが医師を現場まで搬送する「医師搬送」という業務もあります。
その他
コロナウイルス
その他として、最近ではコロナウイルスに罹患されている方の搬送があります。
コロナウイルスに罹患されている場合は救急隊自身もコロナウイルスに罹患する恐れがあるのでフルPPE(感染対策を万全にした状態)で活動します。
また、コロナウイルスに罹患した方には専用病床があり、令和5年現在では慢性的にひっ迫している現状が続いています。このように病床が足りないということは、収容先の病院が決まらないという現象に繋がります。
私も救急隊員として活動した際に、10件以上の病院に収容を断られてしまい、現場から3時間程度動けないといったことがありました。他の自治体ではこれ以上に医療のひっ迫があり、3時間以上決まらなかったという現場もあります。
コロナウイルスに罹患していない方を搬送する場合でも、コロナウイルスに関わる医療ひっ迫で病院選定が難しくなり収容先が決まりにくくなっています。
今後は、コロナウイルスの感染法上の分類が「5類」へ変更されるので対応が変わる可能性もあります。
精神疾患
救急の現場では、精神系の疾患がある方やその家族や知人からの通報もあります。
多幸感を得るために、薬を大量に摂取して意識がはっきりとしない例や、家族が自殺をしそうという通報もあり、救急隊へ危険が及ぶ恐れがある場合は警察にも出場していただき対応にあたります。
その人の悩みや不安を解消するために病院の先生と相談しながら現場対応することもあります。
実際、現場活動中に包丁を向けられたこともありますが、その現場では話し合いをして事なきを得ました。
ドクターヘリ、ドクターカー要請
現場によっては1秒でも早く医療機関へ連れていきたいが、時間がかかる恐れがある場合などで、ドクターヘリや、ドクターカーを要請することもあります。
事故や怪我等で重篤な怪我をした場合や、皆さんもご存じのアナフィラキシーショックの影響で呼吸困難になりかけている時なども該当します。
ドクターヘリを呼ぶ際には、安全に離着陸をするために消防隊が地上の安全管理に入ります。そこでは、救急隊と消防隊とドクターヘリによる密な連携が必要になります。
救命講習
家族や知り合いが倒れた時に焦らないで手当てできるかな?
目の前で家族や知り合いが倒れてしまったときに、あなたは助けることができますか?
こんな時に「大丈夫ですか?」と一歩踏み出したいけど「何を学んだら良いかわからない」という方や仕事の関係で救命方法を学ばなくてはならない方に向けて【救命講習】というコースがあります。
救命講習には
講習名 | 講習時間 | 講習項目 | 終了証 |
応急手当講習 | 3時間未満 | 心肺蘇生法(主に成人に対する)とAEDの使用方法、三角巾、搬送法 | 無 |
救命入門コース | 45分、90分 | 心肺蘇生法(主に成人に対する)とAEDの使用方法 | 有 |
普通救命講習Ⅰ | 3時間 | 心肺蘇生法(主に成人に対する)とAEDの使用方法 | 有 |
普通救命講習Ⅱ | 4時間 | 普通救命講習Ⅰの内容に合わせ知識の確認(筆記)・実技の評価 | 有 |
普通救命講習Ⅲ | 3時間 | 心肺蘇生法(主に小児、乳児、新生児に対する)とAEDの使用方法 出血時の止血法、異物除去法 | 有 |
上級救命講習 | 8時間 | 心肺蘇生法(成人・小児・乳児・新生児)と AED の使用方法 知識の確認(筆記試験)・実技の評価(実技試験) ファーストエイド(傷病者管理法、外傷の手当要領、搬送法) | 有 |
その中でも一般的なのは「普通救命講習Ⅰ」というコースです。
このコースを受講すれば、屋外で心肺停止を疑われる方に対して有効な処置を行えるようになります。
また、地域によって普通救命講習Ⅰでも異物除去を行ったり、体位管理や搬送法も行ったりしますので興味がある方は各自治体のホームページを確認するか、消防署へ連絡してみましょう。
救命講習は誰かを助けるための知識や技術を身につける場です。しかし、助けを求める人が目の前にいても見て見ぬふりをしてしまう方もいる中で、そんな中一歩を踏み出すために背中を押す場であると考えます。
大切な方に万が一何かあったときに、この記事をきっかけに見ているだけではなく咄嗟に行動できる方が増えてくれると嬉しく思います。
消防学校 救急科
救急隊はどこで医療の知識や技術を勉強するのかな?
消防士は消防学校という施設で様々な研修をします。
消防士になりたての職員が6か月間消防士としての基礎知識や技術の習得を学ぶ初任教育というものがあり、その後現場活動をして経験を積みます。
しかし、消防学校の初任教育を終えたとしてもすぐに救急車に乗って救急現場へ出場することはできません。
救急隊員の要件には
- 救急業務に関する講習で総務省の定める課程(250時間)を修了した者
- 救急業務に関して前号に掲げる者と同等以上の学識経験を有するものとして総務省令として定める者(救急救命士や看護師の資格、医師免許の所有者)
などがあります。
救急救命士や看護師の資格、医師免許の所有者以外の消防職員は、消防学校の救急科で約2か月間救急医学を座学と実技を通して学びます。
消防士の家族や友人が周りにいてくれると、怪我や具合が悪い時などにどのような対応をすればよいのかわかっているので、とても安心感があります。
消防士との出会いを探している方はこちらもチェックしましょう。各年代の消防士と出会う為におすすめのアプリ等を紹介しています。
公務員の定年延長も決まっているので、採用人数も減りこれからは消防士との出会いが徐々に減るでしょう。消防士を探すなら今がチャンスです!
まとめ
- 救急活動は現場ごとに状況が異なり、救急隊員たちが日々訓練や知識を磨き地域の方々の安心・安全を守るために努力しています
- 救命講習を受講すれば、胸骨圧迫(心臓マッサージ)やAEDの使い方、救急車が来るまでの動きを学ぶことができます
- 消防士は消防学校の救急科で救急医学について最低でも、250時間以上座学や実技を通し徹底的に学んでいます。
救急は1件活動したら、その救急についての報告書を作成しなくてはなりません。しかし、報告書が完成する前に別の救急が重なることがあります。救急隊はずっとパソコンと向かい合って作業をして、救急の現場へ出てを繰り返しています。24時間勤務の中、夜間の救急もあるため救急隊員は寝る時間を削って本当に頑張っています。
高齢化社会の現在、救急要請の半数以上は65歳以上の高齢者です。今後は今以上に高齢の方々の救急要請が増えるでしょう。現在も、地域によっては1日中救急活動をしている自治体が多いです。
今後は救急の件数が増え、全国的に救急車が足りなくなるでしょう。この記事を見てくださった読者の皆さんには是非「救急車の適正利用」をお願いしたいです。